事業を継続していく上で、掛け取引は欠かせないでしょう。しかし、取引先の急な業績悪化や倒産によって債権の回収ができない、なんて事態も起り得ます。そこで、万が一債権を回収できなかったときのために事前に準備しておく「貸倒引当金」について理解を深めておきましょう。
今回の記事では、貸倒引当金とは何か、設定する目的はどうしてなのか、そして実際に不良債権が起きてしまったときにどうすればいいのかをご紹介していきます。
貸倒引当金とは? 意味や読み方をわかりやすく紹介
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは
事業を行う上では、不慮の事態により損失がでるかもしれないリスクを考慮して、事前に損失額を予想して備えておく必要があります。貸倒とは、取引先の倒産等により未回収のお金を回収できなくなってしまうこと。そして引当金とは、将来の損失がどの程度になるのか予想し準備しておくことを意味します。
貸倒引当金を用いる目的
企業会計原則の中に「費用収益対応の原則」が存在します。費用は収益を出すために使われるお金であるため、正確な算定が必要です。今年度に掛け取引(売上計上)をした企業が、翌年度になり倒産したとします。倒産により売上が回収できなくなってしまうと、翌年度に費用(損失)がでてしまいます。そうなると収益と費用が別々の年度で発生してしまうので、正確な期間収益を算定できません。
このような事態を防ぐために、あらかじめリスクを考慮して貸倒引当金を計上します。もし不慮の事態で売上が回収できなくても、引当金を取り崩すことで年度をまたいで費用が発生するのを防げます。
貸倒引当金と貸倒損失の違い
貸倒引当金は、将来のリスクに備えて事前に準備するお金・まだ回収できないと決まった訳ではないが、その可能性があるお金のことを言います。一方で貸倒損失とは、掛け取引していた金額を回収できないという事実が確定し、損失となったお金のことを言います。
貸倒引当金を計上していれば、損失がでた場合に貸倒引当金の取り崩しをおこない損失を軽減させます。しかし貸倒引当金を計上していなかった場合は、回収できなかったお金は全額“貸倒損失”として計上するのです。
貸倒引当金が負債として扱われる理由(資産のマイナス)
貸倒引当金は、将来発生する費用を事前に計上しておくお金であることから、負債として扱われています。売掛金は資産に計上されているので、事情によりその一部が回収できなくなるということは、資産のマイナスになります。
貸倒引当金を計上するときは、相手側の勘定科目が経費として計上されるため、貸倒引当金は負債(資産のマイナス)として扱われるのです。
貸倒引当金に当てはまる債権・当てはまらない債権
貸倒引当金に当てはまる債権の具体例
貸倒引当金の対象となる債権は以下のものがあります。
- 売掛金(売上の対価として受け取る権利のある金銭)
- 貸付金(決まった期限で返してもらう約束で貸した金銭)
- 未収金(営業以外の取引で生じた金銭。または保有している資産の売却等により将来受け取る権利のある金銭)
- 受取手形(売掛金同様、将来受け取る権利のある金銭であり、割引手形や裏書手形も含まれる)
- 立替金(本来は取引先が負担すべきものを、一時的に立替えた金銭)
会社を経営していく上で、生じた金銭債権のうち回収を前提としたものが対象となっています。未収金の中には「未収加工賃・未収手数料・未収地代家賃・未収利子」等も含まれています。
貸倒引当金に当てはまらない債権の具体例
貸倒引当金の対象とならない債権は、具体的に以下のものがあります。
- 保証金や敷金(賃貸契約等で契約の際に支払った金銭)
- 手付金や前払金(資産の購入等にあたり、事前に代金の一部を支払った金銭等)
- 預け金(取引先等に一時的に預けている金銭)
- 仮払金・立替金(費用として計上予定の支出)
- 企業と関係のない個人的な貸付金
事業の売上や営業に直接関わりのない金銭が、貸倒引当金の対象にはなりません。仮払金や立替金の中には、出張にかかる費用を概算で支払ったものや、接待等で交際費を立替えた費用も含まれます。
貸倒引当金の損金算入が可能となる条件と効果
【条件】大企業は除外・中小法人のみ可能
会計上と違い、税務上「貸倒引当金」は一定の限度額まで損金(税務上の経費)として算入できます。しかし、算入できる条件は“原則として資本金1億円以下の中小企業”のみに限られています。さらに中小企業の中でも大企業の完全子会社は対象外です。例外として金融機関等、回収不能額がほかの事業よりも大きくなる可能性が高い事業者は貸倒引当金の損金算入が可能です。
【効果】初年度は大きな節税になる
貸倒引当金は、必ずしも回収不能になり貸倒れになるとは限りません。しかし、万が一のために必要経費として計上しておけば、節税効果があります。ただし、節税になるのは1年目のみです。翌年に費用として計上された貸倒引当金が使われなかったときは、その金額を収入として繰り戻す必要があります。そのため貸倒引当金の計上が節税対策になるのは最初の1年だけ、と覚えておきましょう。
貸倒引当金を求める2つの計算方法
①一括評価
貸倒引当金の一括評価は、事業を継続していく上で回収を前提として発生した金銭が対象です。個人事業主の場合は、事業の内容で得た所得が対象であり、不動産所得や山林所得は対象外になります。貸倒引当金を一括評価で計算する場合に用いる繰入率は「実績繰入率」と「法定繰入率」があります。
実績繰入率
実績繰入率は次の方法で計算します。
実績繰入率=((a+b-c-d)×(12÷各事業年度の合計月数))÷e
a=過去3年間の貸倒損失の合計額
b=過去3年間の個別評価分の引当繰入額
c=過去3年間の個別評価分の引当戻入額
d=適格組織再構成による引継ぎを受けた貸倒引当金の金額
e=過去3年間の一括評価の合計額÷事業年度の数
実績繰入率は過去3年のデータを元に計算されます。
法定繰入率
法定繰入率は業種によって異なり、資本金額によってもかわってきます。資本金1億円以下の中小企業にのみ認められているもので、決められた法定繰入率を使用します。
- 卸売業・小売業(飲食店等を含む):1000分の10
- 製造業・電気業・水道業:1000分の8
- 金融業・保険業:1000分の3
- 割賦販売小売業:1000分の13
- サービス業等のその他の業種:1000分の6
② 個別評価
個別評価の対象となるものは、一括評価で定められたものより、回収が厳しいものになります。貸倒引当金を決めるには、債権ごとに個別で計算する必要があり、回収不能と認められる金額の範囲も異なります。具体的な債権としては以下の種類があります。
- 長期棚上げ債権(売掛金等の債権のうち、法令の手続きを行い5年以上かけて返済されるお金)
- 一部取立不能債権(事業の好転が見られない場合に、取り立ての見込みがない金額)
- 形式要件が生じた金銭債権(更生手続き開始等の申し出等の事由が生じているお金)
貸倒引当金の処理方法2つ|用いる勘定科目と仕訳
【初年度】繰入限度額の貸倒引当金を設定した
会社を立ち上げた初年度に、貸倒引当金繰入額設定する仕訳は以下のようになります。
貸倒引当金繰入額 〇〇〇 | 貸倒引当金 〇〇〇
通常貸倒引当金繰入額は“販売費及び一般管理費”として処理されます。しかし例外として、貸付等の営業外にかかるものについては、“営業外費用”として計上します。前述した通り、貸倒引当金の処理方法“資産のマイナス”です。
【2年目以降】2つの処理方法
2年目以降の貸倒引当金の処理方法は「洗替法(あらいがえほう)」「差額補充法(さがくほじゅうほう)」の2つがあります。税法上、洗替法が原則となっていますが、どちらの方法を選択しても法人税額に変わりはありません。
①洗替法
洗替法は、前期に計上した貸倒引当金をすべて戻入処理。そして今年度の貸倒引当金を改めて計算し繰り入れる方法です。
(例)前期末計上の貸倒引当金が10万円。今年度計上予定の貸倒引当金が12万円。
まずは前年度の貸倒引当金を戻入処理します。
貸倒引当金 100,000 | 貸倒引当金戻入額(貸倒引当金繰入額) 100,000
次に今年度の貸倒引当金の計上をします。
貸倒引当金繰入額 120,000 | 貸倒引当金 120,000
②差額補充法
差額補充法は、前年度に計上した貸倒引当金の残高と今年度計上予定の貸倒引当金の差額を計上する方法になります。
(例)前期末計上の貸倒引当金が10万円(残高10万円)。今年度計上予定の貸倒引当金が12万円。
前年度の残高と今年度の計上予定の貸倒引当金の差額は「2万円」となるので、差額分だけを計上します。追加で繰り入れることで、貸倒引当金の残高を12万になるように仕訳するのです。
貸倒引当金繰入額 20,000 | 貸倒引当金 20,000
(例)前期末計上の貸倒引当金が10万円(残高10万円)。今年度計上予定の貸倒引当金が8万円。
前年度の残高よりも、今年度の計上予定額が小さい場合は、差額を戻入処理します。こちらも多くなってしまった分を戻し入れることで残額を8万になるように仕訳していきます。
貸倒引当金 20,000 | 貸倒引当金戻入額 20,000
【貸倒れの発生】貸倒引当金が不足した
実際に債権が回収不可となってしまった場合は、まず貸倒引当金を取り崩します。計上している貸倒引当金の額だけで足りるのであれば、貸倒損失は発生しません。
(例)売掛金5,000円の回収ができなくなった。貸倒引当金の計上額は5,000円である。
貸倒引当金 5,000 | 売掛金 5,000
しかし、計上していた貸倒引当金の額を超えた貸倒れが出てしまった場合は、差額を“貸倒損失”として処理する必要があります。
(例)売掛金10,000円の回収ができなくなった。貸倒引当金の計上額は5,000円である。
貸倒引当金 5,000 | 売掛金 10,000
貸倒損失 5,000
もし貸倒引当金を計上していなかった場合は、全額“貸倒損失”として処理することになります。貸倒損失は会社の資金繰りを圧迫する可能性があり、最悪の場合は、倒産ということにもなりかねないので、計上額の見極めも大切になってきます。
【貸倒れの回収】改めて支払いを受けた
売掛金等の債権が回収不能と確定した場合は、貸倒引当金の取り崩しや貸倒損失の計上をします。しかしその後、取引先の業績回復や精算手続きによって売掛金等の支払いが行われることもあります。その際の仕訳をみていきましょう。
(例)貸倒れとして処理した10万円が、取引先の業績回復によって現金で支払われた。
普通預金 100,000 | 償却債権取立益 100,000
支払いを受けた場合は、償却債権取立益(しょうきゃくさいけんとりたてえき)という科目で収益として計上します。
貸倒引当金の基礎知識まとめ
貸倒引当金は、債権に対する将来のリスクを軽減するために企業が事前に用意しておくお金です。対象となるものは、事業を進めていく上で回収が前提となっている債権です。一方で対象とならないものは、営業活動に直接関係のないものとなっています。貸倒引当金の設定は、初年度に限り節税対策にもなります。
貸倒損失を出さないためにも、貸倒引当金の計上は企業にとって重要です。貸倒損失を出してしまうと資金繰りに影響する可能性もあります。貸倒引当金の目的や計算方法、仕訳について理解し、万が一の回収不能債権に備えましょう。